魚の「なぜ?」を、現場から。

寿司チェーンに知らない魚が増えた?珍しい寿司ネタが登場する理由を水産卸が解説

寿司チェーンに知らない魚が増えた?珍しい寿司ネタが登場する理由を水産卸が解説

最近、回転寿司に行くと、以前はあまり見かけなかった魚介類が寿司ネタとして登場していることに気づきます。

マグロ、サーモン、ハマチ、エビといった定番のネタに加え、名前を聞いてもどんな魚なのか分からないような商品もあります。

先日、魚べいに行ったときも、アイスランド貝、黒カレイ、ニシンの切り込みなどを食べました。

ニシン切り込み

ニシン切り込み

どれも、全国的にはそれほど知名度が高くない食材だと思います。

実は、水産卸の仕事をしている私自身も、2026年の春頃にアイスランド貝のオファーを受けています。

石垣貝やトリガイの供給が少なくなっていたため、その代替原料として提案されたものでした。

こうした経験から感じるのは、寿司ネタに使われる魚介類の選択肢が、少しずつ広がっているのではないかということです。

今回は、なぜ回転寿司に珍しい魚介類が登場するようになったのか、水産卸の現場経験も交えて考えてみたいと思います。

なぜ回転寿司に珍しい魚が登場するようになったのか?

理由は一つではありません。

水産物の漁獲状況の変化、原料価格、加工技術、商品開発、そして他店との差別化など、さまざまな事情が関係しています。

1. 従来の寿司ネタが安定して調達できるとは限らない

水産物は工業製品とは違い、必要なときに必要な量を必ず生産できるものではありません。

天然魚であれば漁獲量が変動しますし、養殖魚であっても生産量や飼料価格、疾病などの影響を受けます。

さらに、輸入原料は為替相場や海外の需要によっても価格が変わります。

水産卸の営業をしていると、今まで普通に扱っていた商品が、ある時期から急に手配しにくくなることがあります。

そのような場合、似た用途に使える別の魚介類を探すことになります。

つまり、珍しい寿司ネタが登場する背景には、単なる話題づくりだけでなく、原料調達上の事情もあるわけです。

2. 知名度が低くても、おいしい魚はたくさんある

日本の周辺海域には非常に多くの魚が生息しています。

しかし、全国のスーパーや回転寿司で販売されている魚種は、その一部です。

地域では普通に食べられていても、全国的にはあまり知られていない魚もあります。

また、味はよくても漁獲量が少なかったり、サイズが不揃いだったり、加工に手間がかかったりするため、広く流通していない魚もあります。

こうした魚の一部は「低利用魚」と呼ばれています。

ただし、知名度が低い魚がすべて低利用魚というわけではありません。

海外で普通に利用されている魚介類が、日本では珍しい寿司ネタとして登場することもあります。

3. 加工技術や物流の発達

全国展開する回転寿司チェーンでは、寿司ネタを一定の品質と規格で安定して提供する必要があります。

そのためには、魚をおいしく加工するだけでなく、歩留まりやサイズ、冷凍・解凍後の品質なども重要です。

以前は寿司ネタにしにくかった魚でも、加工方法を工夫することで商品化できる場合があります。

くら寿司では、全国の漁港から天然魚を集め、自社の加工施設で処理する取り組みを行っています。

このような仕組みがあれば、従来は流通に乗せにくかった魚も活用しやすくなります。

4. 他の回転寿司店との差別化

回転寿司チェーンにとって、他店にはない商品を提供することも重要です。

定番のマグロやサーモンだけでなく、珍しい魚を期間限定商品などとして販売すれば、お客さんに新しい発見を提供できます。

私自身、今回魚べいでアイスランド貝を見つけたときは、思わず注文してしまいました。

珍しい魚介類には、こうした集客上の魅力もあると思います。

実際に登場している珍しい寿司ネタ

では、どのような魚介類が寿司ネタとして採用されているのでしょうか。

アイスランド貝

北大西洋に生息する二枚貝です。

2024年にはスシローでアイスランドガイを使った寿司が提供され、話題になりました。

私自身も2026年の春頃、石垣貝やトリガイの代替品としてオファーを受けています。

当時、得意先に商品を見せましたが、反応はあまりよくありませんでした。

見た目が少し馴染まず、寿司ネタとしてどうなのだろうという印象があったんですね。

サンプルも置いてきましたが、実際に試食されたかどうかは分かりません。

ところが、2026年10月に魚べいで食べてみると、これが意外に悪くありませんでした。

つぶ貝に似た歯ごたえがあり、貝の風味も少し感じられます。

味は淡泊ですが、歯ごたえが気に入り、もう一皿注文しました。

見慣れない商品でも、実際に食べてみると印象が変わることがある。

アイスランド貝は、そんな経験をした寿司ネタでした。

黒カレイ

魚べいでは黒カレイの寿司も食べました。

カレイといえば煮付けや唐揚げのイメージがありますが、寿司ネタとしても提供されています。

実際に食べた感想は、正直なところ「普通の白身魚」という印象でした。

特別に強い旨味や個性は感じませんでしたが、淡泊で食べやすい味でした。

ただし、商品名の「黒カレイ」が標準和名のクロガレイと同一種なのかは確認できていません。

こうした魚種名と商品名の違いも、水産物の流通では注意したいところです。

ニシンの切り込み

ニシンの切り込みも、今回魚べいで食べたネタの一つです。

切り込みは、ニシンなどの魚を塩や米麹で漬け込んだ、北海道や東北地方で親しまれている発酵食品です。

食べた感想は、塩辛のような味。

さらに、味噌に似た風味も感じました。

個人的には、寿司ネタとして食べるより、日本酒と一緒につまみたい味だと思いました。

ニシン自体が全国的に知られていないわけではありません。

しかし、郷土料理である切り込みを寿司ネタとして提供するのは、面白い商品開発だと思います。

琉球スギ

くら寿司では、沖縄県で養殖された琉球スギを寿司ネタとして販売した実績があります。

スギは、名前に「スギ」とついていますが、ブリやカンパチとは異なる魚です。

養殖による生産が行われており、新しい寿司原料の選択肢として注目された魚の一つです。

センネンダイ

2025年の大阪・関西万博では、スシローの未来型万博店で、養殖されたセンネンダイの寿司が提供されました。

センネンダイは一般的な回転寿司ではあまり見かけない魚ですが、養殖技術と組み合わせることで商品化された事例です。

このように、珍しい寿司ネタの登場には、天然魚の有効活用だけでなく、新しい養殖技術も関係しています。

水産庁も知られていない魚の利用拡大に取り組んでいる

2026年7月、水産庁は「魅了(みりょう)ギョ・プロジェクト」を始めました。

これは、低利用魚や未利用魚を含め、まだ十分に知られていない魚のおいしさや魅力を広める取り組みです。

背景には、海洋環境の変化などによって、産地で水揚げされる魚種や漁獲時期が変化していることがあります。

水産庁は、生産者、流通業者、加工業者、外食産業、小売業などが連携し、商品開発や販路開拓を進めることを目指しています。

珍しい魚を消費者に知ってもらい、食べてもらうことは、今後の水産業にとっても重要な課題なのです。

珍しい魚が寿司ネタとして定着するのは簡単ではない

ただし、珍しい魚であれば何でも売れるわけではありません。

水産卸の仕事をしていると、新しい魚介類の提案が必ずしも採用につながらないことを感じます。

味だけでなく見た目も重要

寿司は、味だけでなく見た目も重要な商品です。

例えば、石垣貝やトリガイの代替としてアイスランド貝を提案しても、見た目が馴染まなければ採用をためらうこともあるでしょう。

特に寿司ネタは、シャリに乗せたときの形や色合いが大切です。

おいしい魚でも、寿司にしたときの見栄えが悪ければ、商品化は難しくなるかもしれません。

サンプルを渡すだけでは評価されないことも

新商品を提案するときには、サンプルを渡すことがあります。

しかし、サンプルを置いてきたからといって、必ず試食してもらえるわけではありません。

忙しい得意先では、後で食べようと思っているうちに忘れてしまうこともあります。

私自身、今回のアイスランド貝では、サンプルを置いてきたものの、実際に食べてもらえたかどうかは確認できませんでした。

つまり、反応が鈍かったからといって、味が評価されなかったとは限らないのです。

新しい魚介類を普及させるには、実際に食べてもらい、特徴を理解してもらうことも重要だと思います。

安定供給できることも必要

回転寿司チェーンでは、全国の店舗で同じ商品を提供することがあります。

そのため、一定の数量を安定して確保できることが重要です。

珍しい魚でも、漁獲量が少なく、必要な数量を確保できなければ、定番商品として販売することは難しいでしょう。

一方、数量が限られている魚なら、期間限定や地域限定の商品として活用する方法もあります。

珍しい寿司ネタは今後も増えるのか?

私は、今後もさまざまな魚介類が寿司ネタとして提案されていくと思います。

従来の魚が安定して調達できるとは限らず、原料の選択肢を増やす必要があるからです。

また、加工技術や養殖技術が進めば、今まで寿司ネタに使われる機会が少なかった魚にも可能性が生まれます。

ただし、珍しい魚が増えることと、それらが定番商品として定着することは別の話です。

味、食感、見た目、価格、安定供給。

こうした条件がそろって初めて、継続的に販売できる寿司ネタになるのだと思います。

また、消費者がその魚の名前や特徴を知ることも重要です。

今は珍しいアイスランド貝も、将来は普通の寿司ネタとして知られるようになるかもしれません。

まとめ:回転寿司は新しい魚介類と出会える場所

最近の回転寿司では、全国的にはあまり知られていない魚介類や、従来とは違った加工食品が寿司ネタとして登場しています。

その背景には、原料調達の変化、低利用魚の活用、加工・養殖技術の進歩、商品開発などがあります。

今回、魚べいで食べたアイスランド貝、黒カレイ、ニシンの切り込みも、それぞれ特徴の異なる商品でした。

特に印象的だったのはアイスランド貝です。

春に仕事でオファーを受けたときには、見た目に馴染みがなく、得意先の反応も今ひとつでした。

しかし、実際に食べてみると、つぶ貝に似た歯ごたえがあり、思わずもう一皿注文してしまいました。

魚の価値は、知名度だけでは決まらない。

水産卸の仕事をしていても、まだまだ知らない魚介類や、実際に食べて初めて分かる魅力があります。

これからも回転寿司で珍しい魚を見つけたら、積極的に食べてみたいと思います。

参考資料・出典

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