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ミズダコのオス・メスの違いは?吸盤での見分け方と北海道でメスを「真だこ」と呼ぶ理由

ミズダコのオス・メスの違いは?吸盤での見分け方と北海道でメスを「真だこ」と呼ぶ理由

ミズダコは、オスとメスで見た目に違いがあります。

特に分かりやすいのが吸盤です。

水産の現場では、

  • メスは比較的同じ大きさの吸盤がきれいに並んでいる
  • オスは大きな吸盤が混じり、大小が不揃いに見える

という特徴から、吸盤を見てオス・メスを判断することがあります。

さらに北海道の一部では、同じミズダコなのにメスを「マダコ(真だこ)」、オスを「シオダコ」「ショウダコ」などと呼び分ける地域があります。

標準和名の「マダコ」とは別の話なので、少々ややこしいですね。

そして酢だこの加工現場では、柔らかく食味がよいとしてメスのミズダコが好まれることがあります。一方、硬いオスは「揉み」を強くして柔らかくするという話も聞きます。

私は水産業界でこうした話を聞いてきましたが、調べてみると、現場の経験則と研究結果には興味深い共通点がありました。

今回は、ミズダコのオスとメスの違い、吸盤での見分け方、酢だこの加工との関係を、論文や北海道の資料も交えて紹介します。

ミズダコのオスとメスは吸盤で見分けられる?

まず注目したいのが腕の吸盤です。

メスを見ると、比較的均一な大きさの吸盤が整然と並んでいます。

一方、成熟したオスでは途中にかなり大きな吸盤が混じることがあります。

そのため全体を見ると、

メス=吸盤がきれいに並んで見える

オス=吸盤が大小不揃いでゴツゴツして見える

という違いが出てきます。

「オスは吸盤がバラバラ」と表現されることもありますが、吸盤そのものが無秩序に生えているというより、一部の吸盤が大型化するため、配列が乱れて見えると考えた方が分かりやすいでしょう。

タコ類では、オスの吸盤がメスより大きくなる性的二型が研究されており、オスの大型吸盤が繁殖行動などで何らかの役割を持つ可能性も議論されています。

ただし、その役割についてはまだ不明な点があります。

オスにはもう一つ決定的な特徴がある

吸盤以外にもオスを判別するポイントがあります。

それが**交接腕(こうせつわん)**です。

ミズダコのオスでは8本の腕のうち右第3腕が交接腕になっていて、繁殖時に精莢をメスへ渡すために使われます。

腕の先端付近の形を見ることで、オスだと判断できる場合があります。

ただ、スーパーで売られている切ったタコなら、まずは吸盤の大小を見る方が分かりやすいでしょう。

「オスはケンカするから吸盤が大きい」は本当?

水産の現場で私は、

「オス同士はケンカするから、オスは吸盤が大きくてバラバラになる」

と教えてもらったことがあります。

いかにも納得できそうな話です。

実際、タコ類ではオス同士の競争や攻撃的行動が観察されています。また、オスに特徴的な大型吸盤が性的選択と関係している可能性についても研究されています。

ただし、

「ケンカをした結果として吸盤が大きくなった」

とまで断定できる研究結果は、今回調べた範囲では確認できませんでした。

ですから科学的には、

「オスでは成熟すると一部の吸盤が大型化する。繁殖やオス同士の競争との関連も考えられている」

程度にしておくのが適切でしょう。

浜や加工現場に伝わる説明と、生物学的に証明されていることは分けて考える必要があります。

北海道ではミズダコのメスを「真だこ」と呼ぶ?

ここは水産業界以外の方には、かなり意外かもしれません。

北海道の一部では、

同じミズダコでもオスとメスで呼び方が違います。

例えば北海道・戸井の漁業者への取材では、

オス=ショウダコ

メス=マダコ

と呼んでいることが紹介されています。さらに現地では、メスについて「身が締まって、歯応えがあっておいしい」と評価しています。

ここで重要なのは、

この「マダコ」は必ずしも標準和名のマダコ(Octopus sinensis)を意味していない

ということです。

ミズダコ(Enteroctopus dofleini)のメスを、浜の呼び名として「マダコ」と呼んでいるのです。

最近では北海道でも標準和名のマダコが水揚げされる地域があるため、さらに話がややこしくなっています。戸井でも、昔はほとんど見なかった「南で獲れるマダコ」が近年揚がるようになったという漁業者の証言があります。

そのため北海道産の「真だこ」「マダコ」という言葉を見た場合、標準和名としてのマダコなのか、ミズダコのメスを指す地方名なのかは確認した方がよい場合があります。

ミズダコは酢だこによく使われる

北海道庁によると、ミズダコは肉質が柔らかく、生食として市場に出るものは少なく、大部分が煮ダコや酢ダコに加工されます。

つまり、お正月などに食べる酢だことミズダコは非常に関係の深い存在です。

そして加工現場では、酢だこの原料としてメスのミズダコが好まれるという話があります。

私が現場で聞いてきた理由はシンプルで、

「メスの方が柔らかく、味がいい」

からです。

一方、オスは筋肉質で硬い傾向があるため、加工時の「揉み」を強くすることがあるそうです。

では、「タコを揉む」という昔ながらの加工には、本当に意味があるのでしょうか。

タコを強く揉むと本当に柔らかくなる?

これについては食品科学の研究があります。

Katsanidisによる2004年の研究では、タコの一種 Eledone moschata に対して、

塩分濃度、酢酸、加熱時間、機械的タンブリング(揉む処理)

などの条件を変え、肉の硬さを測定しています。

その結果、タンブリング時間を長くするとタコ肉の硬さが低下しました。

つまり、

「硬いタコはしっかり揉んで柔らかくする」

という加工現場の技術には、食品科学的にも合理性があるわけです。

2023年に発表されたタコの品質に関するレビュー論文でも、この研究が取り上げられています。

5分、20分、35分とタンブリング時間などを変えた研究結果が整理され、長時間のタンブリングや加熱によってタコ肉の硬さが低下することが紹介されています。

加工屋さんが言う、

「揉んで筋肉を壊して柔らかくする」

という感覚は、かなり理にかなっているわけです。

酢そのものにもタコを柔らかくする効果がある

さらに面白いことがあります。

酢だこに使われるです。

先ほどの研究では、酢酸を加えた場合にもタコ肉の硬さが大きく低下しています。

2023年のレビューでも、0.1%、0.2%の酢酸を加えることでタコ肉の硬さが有意に低下した研究結果が紹介されています。

つまり酢だこは、

機械的に揉む

加熱する

酢酸を使う

という複数の方法によって、タコ独特の硬い筋肉を食べやすい食感へ変えていると考えることができます。

昔から行われてきた加工方法ですが、科学的に見ても非常に合理的です。

ミズダコは本当に「オスの方が硬い」のか?

ここは大事なので、あえて書いておきます。

加工現場では、

「メスは柔らかい」

「オスは筋肉質で硬い」

という評価があります。

しかし今回調べた範囲では、ミズダコのオスとメスについて、同じサイズ・漁獲時期・部位などの条件を揃えて物性を測定し、

「オスの方が統計的に硬い」

と直接証明した研究までは確認できませんでした。

先ほど紹介したタンブリング研究もミズダコそのものではなく、別種のタコを対象にした研究です。

ですから、

「科学的にミズダコのオスは必ず硬い」

と断定するのは避けた方がよいでしょう。

一方で、北海道の漁業者が雌雄による食味の違いを認識している例は実際にあります。戸井ではメスを「マダコ」と呼び、身の締まりや歯応えを評価しています。

この辺りは、研究で明らかになっていることと、水産現場が長年の経験から把握していることの間に、まだ研究余地が残っている分野なのかもしれません。

スーパーのタコ売場で吸盤を見てみよう

最後に、覚えておくと面白いポイントをまとめます。

ミズダコのメス
→ 吸盤の大きさが比較的揃って見える

→ 北海道の一部では「マダコ」「真だこ」などと呼ばれる

→ 加工現場では柔らかく食味がよいとして評価されることがある

ミズダコのオス
→ 大きく発達した吸盤が混じり、大小不揃いに見える

→ 地域によって「シオダコ」「ショウダコ」などと呼ばれる

→ 加工現場では硬い原料について揉みを強くするという話がある

そして、タコを揉むと柔らかくなること自体には、食品科学的な裏付けがあります。

今度スーパーで大きなタコ足を見かけたら、ぜひ吸盤を見てみてください。

きれいな大きさで並んでいるでしょうか。

それとも、途中に驚くほど大きな吸盤が混ざっているでしょうか。

普段は「タコ」としか見ていなかった商品も、吸盤に注目するだけで違ったものに見えてきます。

魚売場には、こういう面白い話がまだまだ隠れています。

参考資料

北海道庁「ミズダコ[水蛸]」

北海道におけるミズダコの利用・加工など。

Katsanidis, E. (2004), “Impact of Physical and Chemical Pretreatments on Texture of Octopus (Eledone moschata),” Journal of Food Science, 69(7), 264–267.

機械的タンブリング、酢酸、加熱などがタコ肉の硬さに与える影響を検討。

Zamuz et al. (2023), “Assessing the quality of octopus: From sea to table,” Food Frontiers.

タコの品質や軟化処理について既往研究を整理したレビュー。

Morse et al. (2019), “Tactical Tentacles: New Insights on the Processes of Sexual Selection Among the Cephalopoda.”

頭足類の性的選択、オスの大型吸盤などについて整理したレビュー。

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