「うなぎはメスの方が美味しい」──そんな話を聞いたことがありますか?
牛肉や豚肉でも「メスの方が脂がやわらかく、旨みがある」と言われますが、実はうなぎの世界でも“メスの方が美味しい”という現象が知られているのです。
ところが、ここで一つ驚くべき事実があります。
うなぎは、生まれた時点では性別が決まっていない「性分化前」の状態であり、成長の過程でオスかメスに分かれる“後天的な性決定”をする生き物なのです。
つまり、環境や餌の影響で性別が変わるという、ちょっと信じがたい仕組みを持っているのです。
実際、自然界では大きな個体ほどメスであることが多く、オスは比較的小さめ。
養殖場でも、普通に育てるとオスが多くなる傾向があります。
これは、密度の高い環境やストレスなどがオス化を促すとされているためです。
そこで登場するのが「メス化技術」。
養殖業者の中には、稚魚(シラスウナギ)の段階から、大豆イソフラボンなど植物由来の女性ホルモンに似た成分を餌に混ぜて与えることで、意図的にメス化させる技術を導入しているところもあります。
参照記事目が点!に学んだうなぎの生態
このようにして育てられた“メス化うなぎ”は、身がふっくらとして脂のノリもよく、焼いたときの香ばしさや柔らかさが格別だと評判なのです。
最近はそれを売りにして「姫うなぎ」として販売促進している企業もあります。
原信ナルス「姫うなぎ」(外部サイト)
この背景には、養殖うなぎの品質向上を目指す長年の努力があります。
特に日本のうなぎ文化は繊細で、「蒲焼きにしたときの香りや口当たり」がとても重視されます。
そのため、より良い食味を目指して“メス化養殖”が注目されているのです。
ちなみに、天然うなぎと養殖うなぎの味の違いについても、最近では「養殖のほうが脂が乗っていて柔らかい」と好まれる傾向も見られます。
もちろん天然には天然の良さがありますが、養殖技術の進化によって、味のバリエーションが広がっているのは確かです。
こうして見てみると、うなぎ一匹の背後にも、科学と技術、そして味への情熱が詰まっていることがわかりますね。